「靴は女性を美しい場所へ連れて行ってくれる」。そんなロマンチックな言葉がありますが、シューズのバイイングを担当する私の基準は、驚くほど冷徹で現実的です。どれだけルブタンのレッドソールが妖艶であっても、どれだけ新進気鋭のデザイナーが作るヒールがアーティスティックであっても、「歩けない靴」に高い予算を割くことは絶対にありません。
なぜなら、現代の働く女性たち、そして本当の富裕層のライフスタイルにおいて、「痛みを我慢して美しさを誇示する」という価値観は完全に崩壊したからです。
私たちがシューズのショールームで行うのは、まず「ピッチ(踵からつま先への傾斜)」の角度の計測です。人間の足の骨格構造上、体重がどこに落ちるのか、土踏まずのアーチをインソールが正しくサポートしているかを、実際に自分やフィッティングモデルの足で確かめます。特にジャンヴィト・ロッシ(Gianvito Rossi)やマノロ・ブラニク(Manolo Blahnik)といった名門が作るパンプスは、ヒールが高くても驚くほど歩きやすい。それは、彼らが職人の靴型(ラスト)の設計に何年もの歳月を費やしているからです。
さらに、現代のシューズバイイングの主戦場は、完全に「ローファー」と「コンフォートサンダル」に移行しました。ボッテガ・ヴェネタのボリュームのあるラバーソールシューズや、ザ・ロウの極限までシンプルなスリッポン。これらは、カジュアルでありながら、テーラードジャケットに合わせても全体のコーディネートの品格を落とさない、計算された「ボリューム感」を持っています。
美しさは、快適さの上にしか成り立ちません。歩き方が不自然になるような靴は、どれだけデザインが良くても、その人をエレガントに見せることはできないのです。クローゼットで眠るだけの芸術品ではなく、街を颯爽と歩くための相棒を見極めること。それが、私のシューズバイイングにおける絶対のルールです。